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――アメリカでトランプ政権が誕生し、「保護主義」に対する警戒感が強まっています。

「トランプ政権の保護主義的な動き」という話をするときは、そこだけを見るのではなく、まず前提にあるものを捉えておくべきだ。「トランプ大統領」は突然出てきたわけではなく、大きな流れの中で出るべくして出てきている。

 大きな流れのひとつとして、「エレファントカーブ」といわれるグラフを見てみるといい。これは世界銀行エコノミストだったミラノビック氏が発表したものだが、1988年から2008年までの間に、世界で誰が豊かになったかを示している。グローバリゼーションの進んだこの約20年間に、先進国の富裕層は豊かになっていて彼らの富は6割くらい増えている。新興国の中間層も豊かになった。ところが、先進国の中間層は所得が伸び悩み、ないしは下がっている。

 この要因は第3次産業革命による工業化が世界に広がったことだ。当初は、日本を含むG7の国々だけが工業化に成功して豊かになった。ところが教育の普及で工業化を支える人材が新興国でも続々と生まれ、資本のグローバル化の中で、世界が工業社会化したのだ。その中で、人件費が安い新興国に、先進国中間層の雇用がシフトしたため、彼らが世界的な富の増と分配から取り残されてしまった。

 そうした大きな流れの中から出てきたのが、「トランプ大統領」であり、「ブレグジット」という現象だと捉える必要がある。

――アメリカが保護主義にシフトすることで、世界貿易や経済に大きな変化は起こると考えますか。

 これもまた、大きな流れの方が重要だ。

 そもそも、今、しきりに「保護貿易だ!」と言われているが、実はこの10年くらい、世界の貿易総量は増えておらず、輸出と輸入を足した世界の貿易総額の世界のGDPに対する比率は上がっていない。

 だから、トランプ政権の誕生前からすでに世界の貿易は増えにくくなっている。世界銀行などもスロートレードと呼んで、この現象を注視してきている。

 大きな要因は、中国の地産地消だ。中国が大消費地になり、中国から輸出するために工場を作るのではなくて、中国で売るために工場を作るという投資が増え続けている。貿易というものの質が、気が付かないうちにすでにずいぶん変わっているということだ。

 したがって、TPPについても、もちろん関税の問題もあるが、どちらかというと知的財産とか、デジタル分野といった将来に向けたところのルールづくりが本質的な部分だ。製造業を中心にみて「保護主義だ」という議論をするよりも、先進国は、知的財産やデジタル分野でのルール作りを急いでやることのほうが今は重要度が高いとも言える。

 確かに、アメリカの国境税は大きなインパクトがあるかもしれない。狙い撃ちをされるのが中国、日本、ドイツとなる可能性は高いし、これがどうなるかは、目を凝らしてみていなければならない。

 だが、「保護主義の時代がくる!」などと騒ぐ前に、そもそもグローバル貿易というのはもう伸びにくくなっていて、世界は地産地消型に移行しつつあることを落ち着いて捉えたほうがいい。そうすれば、今、悩まなければいけないことにフォーカスできる。

 メディアを騒がせる「保護主義」という見出しの表面だけに踊らされてはいけない。

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