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山口真由

イスラエル大使に指名されたデイビッド・フリードマンは、極端にイスラエル寄りのユダヤ人弁護士。彼は言ってみれば「トランプ政権の火薬庫」だ。味方のはずのユダヤ人までもが、人事撤回の署名を提出したと聞く。

米通商代表部(USTR)代表に指名されたロバート・ライトハウザー弁護士は、保護貿易主義と中国批判で知られる。証券取引委員会(SEC)委員長のジェイ・クレイトン弁護士は、投資銀行や大企業に露骨に肩入れし、「ウォール街の守護神」とされる。

司法長官のジェフ・セッションズには、「人種差別」を理由に判事になりそこねた過去がある。労働長官候補に挙がっていたアンドリュー・パズダーも弁護士経験者だが、不法移民を雇っていたことや、元妻へのDV疑惑などが相次いで発覚。指名を辞退している。

トランプ政権における弁護士の存在感を理解するために、まずは、アメリカと日本における弁護士の違いについて知っておく必要がある。

私は、東京大学法学部を卒業後、国内の法律事務所に勤務し、米ハーバード大のロースクール(法科大学院)を経て、2016年に米ニューヨーク州の司法試験に合格した。その実体験として、アメリカと日本の弁護士事情はずいぶん違うと感じる。

まず、「アメリカは弁護士が多い訴訟社会で、日本は弁護士に頼らずに争いを解決しようとする」とよく言われるが、これははたして正しい認識だろうか。

答えは「イエス」だ。

2016年の数字で比較すると、アメリカで弁護士登録している人数は130万人強。日本は近年弁護士が増えたと言われれるが、それでも3万7000人程度。じつに30倍以上の開きがある。だが、この単純比較は、ややミスリーディングだろう。

日本の弁護士の社会的地位は、いまだに押しなべて高い。「弁護士」という肩書きだけである程度の信用を得られ、収入もそれなりに安定している。しかしアメリカでは、「弁護士」の肩書だけで、信用や収入が得られるとは限らない。

日本の場合、法律に関わる職業は、弁護士以外にもたくさんある。4万2000人の行政書士、1万9000人の司法書士、1万人の弁理士がいる。対するアメリカでは、日本の行政書士司法書士弁理士が行う業務を、すべて弁護士が引き受ける。

業務の幅が広いぶん、弁護士間の格差も開く。ウォール街で数億を稼ぎ出す人もいれば、田舎で少額訴訟にだけ関わって一生を終える人もいる。

日米の弁護士事情が異なる背景には、試験制度の違いがある。日本の司法試験の合格率は、2014年の時点で22.6%となっている。これは司法試験のシステムが変わったためで、以前は合格率2-3%程度の超難関試験だった。

それに対して、たとえば、米ニューヨーク州の2014年の司法試験合格率は60%、初回受験者に限れば73%、外国人を除けば82%まで上がる。

実際、アメリカにいると、司法試験合格者が数多くいることを実感できる。

たとえば、ハーバード・ロースクールの教授陣のなかには、司法試験に受かって弁護士として働いていた人がたくさんいる。それは当然として、驚くべきは、図書館で学生たちの調査を手伝ってくれる司書にも、司法試験の合格者が少なからずいることだ。

逆に言えば、アメリカの場合、司法試験に合格しただけでは、弁護士として成功できるとは限らないということだ。日本は弁護士という職業の「参入障壁」がきわめて高いのに比べて、アメリカではそうでもない。

要するに、アメリカの法曹界はピンキリなのだ。弁護士として、億円単位のカネを稼ぎ、国家の中枢で活躍するためには、格差社会である法曹界のかなり上部にいなくてはならない。「弁護士」という職業が「エリート」を意味しないアメリカで、「エリート弁護士」になるためには、司法試験の合格だけでなく、プラスアルファの条件が必要となる。

「トップ14」を修了することが「アメリカの中枢で活躍するための条件」と、有名受験カウンセラーは語っている。

「トップ14」のなかでも、イェールとハーバードは特別な意味を持つ。日本ではハーバードの知名度が圧倒的に高いのだが、じつはランキングが発表されて以来、不動の1位の座にあるのはイェールの方である。2017年のランキングだと、イェールを筆頭に、ハーバードとスタンフォードが同率2位、コロンビアが4位となっている。

アメリカの場合、受験生も学校側も「校風」を重視する。スタンフォードに落ちながら、ハーバードに受かる学生も多い。そして、イェールとハーバードは、この校風がほぼ真逆だ。それぞれが自分に合う校風を選んだ結果、イェールに進学する人もいれば、ハーバードに行く人もいる。

校風の違いをひとことで言えば、ハーバードの「競争」に対して、イェールの「協調」となる。

イェールは、学問への探究に特化した、格式あるロースクールだ。学生たちを競わせるよりも、仲間として助け合わせようとする。競争が激しくならないように、1年生のはじめの時期にはあえて成績評定をつけない。

また、仲間としての一体感や親密な雰囲気をつくるために、イェールは入学者数をしぼり込んでいる。1学年だいたい200人強というから、東大法学部よりもずっと少ない。

一方のハーバードは、スター教授を数多く抱え、講座数は400を超える。ハーバード・ビジネス・スクールとの共同講義も多く、投資銀行でバリバリ稼ぎたい、ビジネス志向の学生たちにウケがいい。マンモス校で1学年が600人近い。イェールと正反対で、1年生は成績評定をめぐって激しい競争にさらされる。

イェール修了生が学者や人権派弁護士になる傾向があるのに対して、ハーバード修了生は投資銀行や企業法務など「おカネの匂いがする」道に進む人が多いとされる。

実際、アメリカ法曹界のスーパーエリートたちが任命されてきた歴代の連邦最高裁判事のうち、19人がハーバード、10人がイェールのロースクール出身者である。

ロースクール・ランキングでハーバードと同率2位となったスタンフォードは、シリコンバレーの隆盛によって頭角を顕した新興勢力であり、いまだ2人の判事しか最高裁に送り込んでいない。

さらに、現在8人いる連邦最高裁判事のうち、5人がハーバード(うち1人は、夫の転勤に伴ってコロンビアに転籍)、残る3人がイェールの出身なのだから、アメリカ法曹界に占める両校の圧倒的な地位が伺えるというものだ。

そんなわけで、まずは有名ロースクール出身であることが、エリートとして国家の中枢で活躍するための最低条件なのである。それに加えて、

(1)卒業時に「最優秀(トップ5%)」「優秀(トップ10%)」「優等(トップ25%)」などを受賞していること

(2)在学中に「ローレビュー」という法律雑誌の編集に携わっていること

(3)卒業後に最高裁判事の調査官となっていること

など、誰もが知るいくつかの「優秀さの証し」がある。


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http://d.hatena.ne.jp/d1021/20170220#1487587469